小動物園での環境エンリッチメント
鈴木飼育係
2025年6月15日
皆さんは「環境エンリッチメント」という言葉を知っていますか?
動物園ファンの方なら一度は耳にしたことがあるかと思います。
環境エンリッチメントとは、飼育下におかれた動物たちの福祉や種ごとに持つ特徴に合わせて、
飼育環境や管理方法を改善または向上するための工夫のことを指します。
環境エンリッチメントは以下の5つのタイプに分けることができます。
[1]飼料エンリッチメント … 餌の種類や与え方を工夫して、採食行動を豊かにする。
[2]構造エンリッチメント … 動物舎の設備を変更・追加して、行動上の選択肢を増やす。
[3]感覚エンリッチメント … 五感を刺激するような仕組みを取り入れる。
[4]社会エンリッチメント … 年齢や性別などを考慮した個体(または個体群)管理をし、適切な社会的関係を構築させる。
[5]認知エンリッチメント … 環境認知能力の高い動物に対して、その能力を引き出すような道具などを与える。
今回は小動物園で行っている環境エンリッチメントについて、
いくつかご紹介したいと思います。
まず、取り組みやすい工夫として飼料エンリッチメントがあります。
例えば、サル類の餌は飼育頭数に合わせてできるだけ全頭が平等に採食できるように、
餌を細かく刻んで展示場の地面・岩の上・ぶら下げてあるタイヤの中など、
広範囲にばら撒くようにしています。
サルの群れには個体ごとに順位がついていることが多く、
強い個体が嗜好性の高い餌を独り占めしてしまうことが多いので、
立場の弱い個体もできるだけ全種類の餌を確保できるようにしています。
また、不定期で園内剪定した枝葉を与えたり、
季節に合わせてタケノコや冷凍果物、どんぐり、ミカンなどを通常の餌とともに与えたりすることで、
採食するものにも変化があるようにしています。

次に紹介するのは、構造エンリッチメントの例です。
先ほど紹介したサル(ニホンザル)の展示場に設置してあるタイヤは、
構造エンリッチメントとしても役に立っています。
ほかにも展示場内には消防ホースで作ったハンモックや丸太の渡橋などが設置してあり、
餌を置く場所としても活用できますが、サルたちの行動の選択肢を増やすレイアウトにもなっています。
またクモザルなどの尾を使い行動するサルの展示場には無数のロープが張り巡らされており、
空間を縦横無尽に動き回れるようになっています。

小動物園では、地上だけでなく樹上や岩の上など、
より立体的な環境に生息する動物を他にも飼育しています。
例えば、小獣舎で飼育しているアカハナグマは地上・樹上の双方で生活する動物です。
なので、展示場には梯子や丸太を立てかけて、
餌を探し回ったり上に設置してある巣箱で休息することができたり、
アカハナグマが本来必要とする動きを活発に引き出せるように工夫してあります。

他にもヤギの展示場にはアスレチックを設置し、
ヤギたちがそれらを避けて動いたり、上に登ったりすることで
少しでも運動不足解消につながるようにしています。
このアスレチックはヤギ同士が喧嘩になりそうになった時にも、
片方の逃げ場になるなど様々な用途で役に立っている構造です。

環境エンリッチメントに着目して園内を回ってみると、
他にもいろいろな飼育係の工夫に気づくことができると思います。
これからも動物たちが心身ともに健康な日常が送れるよう、工夫を重ねていきたいと思います。