平成23年2月20日(日) 
しらこばと水上公園フィッシングフィールド
気温6.8度 水温8度 風速1.5m 天候 曇り
 

準決勝・決勝ドキュメント

今朝は予定していた時間より少し早く目が覚めた。
あれから一年…。
去年の激戦を思い出しながら、車をしらこばと公園へと走らせる。
土曜の早朝とあって、あっけないほどに会場へと到着する。
ここ何日かと比べても格段に寒い。
台車に今日の商品を乗せながら、どんよりと曇った空を見上げる。
今日は厳しい闘いになるかもしれない…。
誰かがぼそっと呟く。
テーブルに乗りきらない商品を並べたところで、参加者が続々と集まり始める。
曇り空の中でもしっかりとメンテナンスされたタックルが鈍い光を放つ。
極細のラインと極めて小さなルアーが一層の緊張感を誘う。
各公園を勝ち上がった面子がおもむろに談話を始めるが、視線の先には、互いのタックルを確認している。
もう勝負は始まっているのだ。
考えてみればこのフィールドに立つ事を許された者は、おおよそ170人もの予選を勝ち抜き、各水上公園の看板を背負っている生粋のアングラー。
無様な立ち回りなど出来るはずもない。
まして商品に目を向ける者は誰一人としていない。
これからの時間は己との真っ向勝負なのである。
そんな緊迫した空気を逆撫でするかのように川鵜が隙を見せると着水を試みる。
誰かが無言で花火を鳴らし、駆け足で追っ払う。
いつもとは違う緊張感が周囲を包む。
抽選も終わり、それぞれが釣場所へと移動を開始する。
その中でもしらこばとの代表は狙ったポイントへと足早に移動する。
この辺は地の利と言ったところであろうか。
かくして準決勝はけたたましいブザーの合図とともに始まった。
開始と同時に釣れだす予選とはうってかわって静かなスタート。
それは同時に今日の勝負の厳しさを示していることに他ならない。
ただコンディションは一緒である。
後は自分の力を信じるだけである。
やがてちらほらと釣果が出始める。
しかし寒い。
うっすらと白いものが空から舞ってくる。
気温、水温も上がらずまれにみる激戦である。
手を変え、品を変え、あらゆるレンジを探る。
過去の大会には見ることのないシビアな闘いが繰り広げられている。
コンスタントに釣果を上げている人は、釣り方を見る限り、必要な情報を知り尽くしているように見受けられる。
おそらくここに通い詰め、フィールドを熟知しているのであろう。
かくして激闘の準決勝は9匹を筆頭に4匹までの勝ち上がり、10名となった。
それにしても疲れる。
この寒さ、緊張感。
勝ち上がれなかったメンバーが、決勝進出者をはげまし、そしてお互いの健闘を讃えあっている。
負けて悔いなしと言ったところか。
さあ注目の決勝戦。
相変わらずコンディションはタフだが、日が差してきたせいか、多少食いが良くなってきた感じである。
だがまんべんなくヒットしているようで、勝負自体は余談を許さない。
9時からは一般の利用者も同じエリアで釣りを楽しんでいるが、こちらの雰囲気に圧倒されている。
とにかく動作にムダがないのである。
シャープでコンパクトなキャスティング、精密機械のようなリトリーブ。
ここまでたどり着くのに、どれだけの時間を費やしたのだろうか。
そんなつまらない想像をしてしまう。
全てがさまになっている。そして洗練された姿は美しくもある。
結局誰1人として休む事なく、10人の戦士は立派に闘い抜いた。
トップは13匹。
この数が多いとか少ないとかは関係ない。
最高のパフォーマンスを発揮しての結果なのだから。
聞けば優勝者は、準決勝もトップ通過とのこと。
完勝だ。
表彰式では誰もが惜しみ無い拍手を送った。
聞けば休みのほとんどは釣りに時間を費やし、さまざまなジャンルの釣りをこなしているとのこと。
もしかしたらその経験が活かされたのかも知れない。
さあ来シーズンからはフリーパスを使い、思う存分水上公園の釣りを楽しむがよい、そして極めるがよい。
優勝者が自分の横にふっと来た。
「おめでとうございます。」
一声かけると、
「自分の人生で最高の瞬間です。」
ぽつりと言った。
「でもまぐれでは取れませんよ。」
そう言って顔を見上げたところ、偏光グラスの奥の瞳に光るものがあった。
聞けば昨年8位で、それが悔しく、プールトラウトに通いつめ、そして徹底的に研究したとのこと。
なるほど、この努力あっての結果なら納得がいく。
最後に力強く言った。
「前人未踏の連覇を狙います。」
その言葉が決して大袈裟に聞こえなかった。
いやむしろこの人ならやるかもしれないと直感した。
新たなる刺客、迎えうつチャンピオン。
来年も素晴らしいドラマが待ち受けているだろう。
厄介な川鵜がどこかへ飛びさり、夜明けの寒さがいつしか、暖かな日差しへと変わっていた。